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東京高等裁判所 昭和24年(新を)253号 判決

控訴人 被告人 関口菊治郎

弁護人 木村貞

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人木村貞作成名義控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。

論旨第一点について。

記録によると原審の第二回公判期日は昭和二十四年三月十五日と指定せられ、被告人にはその旨の召喚状が送達せられ弁護人は請書を差出している。然るに右期日は突如変更せられその前日である三月十四日に第二回公判が開かれているがその間刑事訴訟法第二百七十六条所定の適式の手続を履践していないことは論旨指摘の通りである。しかしながら同条規定の手続を履践させることは専ら訴訟関係人の利害を考慮して定められたもので公益には関係のないことであるから仮令右手続に違背するところがあつても、訴訟関係人が変更せられた期日に出頭し異議なく訴訟を進めた以上は右違背は何等事に害なく責問権の放棄で右違背は救済せられたものと見るべきである。而して右第二回公判はその調書によると公開せられたことになつておる。右期日変更手続に関する違背の故に同公判の裁判は公開の裁判たり得ず延いて憲法第三十七条に違反すとなす論旨は首肯し難く論旨いずれも理由なきものとする。

論旨第二点について。

刑事訴訟法第百五十七条には証人の尋問の日時場所は検事、被告人、弁護人に通知しなければならないと規定してあるから証人尋問には日のみならずその時間もこれを定めて通知しなければならないものと解すべきである。しかるに原審第一回公判調書によると検察官及び弁護人申請の各証人の尋問期日を二月二十八日と指定してその時間の指定をしていないこと論旨指摘の通りである。しかしながら同条が時間を指定することを命じたのも専ら訴訟関係人の便宜を考えてのことであるから、訴訟関係人が異議を述べなければ右の違法は救済せられるものと認むべきである。本件記録によると右証人の尋問はいずれも同日検察官及び弁護人立会の上異議なく施行せられているから、右時間の告知に関する違法は茲に救済せられたものと認める本論旨も理由がない。

論旨第三点について。

刑事訴訟法第百五十八条第二百八十一条によると証人を裁判所外で取調べるときは検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かねばならぬことになつておる。その裁判所外で尋問するについて意見を聴くというのは証人を裁判所に喚問すべきか裁判所外で尋問すべきかについて意見を聴くということで法律上はそれで十分である。裁判所外で尋問する場合に一々その具体的の場所についての可否の意見を聴かねばならぬ趣旨ではない。具体的の場合についても意見を聴いて見ることは――勿論意見に拘束はされないが――親切で望ましい取扱振であろうけれども法律はそこまで要求してないと解すべきである。原審第一回公判調書によると検察官は証人として小川ふく菅家テルを被害現場において尋問され度いと請求し裁判官は弁護人に対し右申請に対する意見を求め弁護人は異議なき旨答えており次で弁護人は証人として相馬亀代を被害現場において尋問され度いと請求し裁判官は検察官に対し右請求に対する意見を求め検察官は異議なき旨答えておる。これによるとこれ等の証人の尋問について裁判所外で施行するかどうかについては訴訟関係人の意見を聴いておると認むべきである。而して裁判官は右申立人の意見を容れず突如として西那須野警察署で尋問する旨の決定をしているが当事者の申立に拘束せられない建前からして右の措置は違法という訳にはゆかぬ。勿論当事者相方の申立が一致する場合成るべく希望に副うことは当事者を満足せしめる所以で実務の施行上望ましいことではあるが法律はその点について裁判所を拘束してないのであるから一致の申立を容れなくても違法ではないのである。尚警察署で証人を尋問してはいけないという法律上の規定もないから原審の右措置は違法ではない。論旨は理由がない。

同論旨第四点について。

新刑事訴訟法は証拠について詳細な規定がなされ或るものは証拠力あり或るものは証拠力なしとせられているから裁判所は勿論証拠力なきものを証拠とすることはできずこれを証拠とすればその理由で判決は破棄せらるべきものとなる故に裁判所は常に証拠力ありと認めた証拠を採つて罪証認定の資料とするのであるが採用した証拠について何故に証拠力を認めたかの理由を逐一説明する必要はない。これは法律の要求しない処である。

論旨は理由がない。

尚被告人提出の控訴趣意書は著しくその提出期間を徒過しているのでこれに対しては判断を与えない。

以上の理由によつて本件控訴を理由なきものとし刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条に従つて主文の如く判決する。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一、七十四丁公判期日を昭和二十四年三月十五日午前十時と指定し弁護人は七十五丁に於て請書に依り右公判期日の指定を受け同じく被告に対しては郵便送達に依り右公判期日の指定を受けて居るに不拘第二回公判は期日変更に付いての何等の法律上の手続を経る事無く指定期日の前日たる同年同月十四日に開廷されて居る事は明に法律上の手続の違法があり斯る事は公開の法廷に於て裁判がなされたとしてもそれは公開すべき予め指定された日時に為された公開裁判とはなり得ないので刑事訴訟法上の公開裁判を受くる権利を侵害した事ともなるのであつて延いては憲法違反の重大なる違法ありと言い得ると思われます指定期日変更手続を採らずに指定期日外の日に公開裁判をしたからと言つてそれは憲法並に刑事訴訟法に所謂公開裁判たり得ないと信じます更に検察官に対し三月十五日の期日指定の手続をした事も記録上見当らない様ですし三月十四日の期日指定の手続は何等当事者等になされて居らず偶々当事者等が任意に同日寄合つて任意に話合で勝手に公開裁判を開廷した様に見受けられ甚だ拙いと思います。

第二、十五丁に証人尋問期日を来る二月二十八日と指定して閉廷したとありますが是れはやはり二月二十八日何時と日時を指定しない事には時間の観念が無い様で刑訴第百五十七条には証人尋問の日時とあり時間は指定すべきで同法の違反があります。

第三、十四丁、十五丁に於て検察官及び弁護人は何れも証人を被害現場に於て喚問され度き旨申請して居るに不拘検察官及弁護人等の意見を聴く事も無く裁判官は独断で警察署で証人を尋問すると決定して居るが是れはやはり刑訴第百五十八条の精神から言つて一応検察官及び弁護人等の意見を聴いた上で決定した方が正しいのでは無いかと考えられます。殊に本件の様に証人等を先に警察署で調べた聴取書を検察官から証拠として提出して居る場合に其の同一人等を更に同じ警察署内で殊に一般人には警察と言う所は特殊な感情を持たせ易い場所に於て再び証人として尋問すると言う事は新刑訴に於ては証拠の証拠力について種々厳格な制限を加えて居る立前から見ても証人尋問の証拠力について疑いを抱かしむる虞れ無しとしない余地を与うるが如き危険を伴い易く多少なり共左様な余地を与え易い様な事は可成避けた方が良いでは無いかと思われます現在の一般人の警察に対する観念より見る時は今一歩進んだ民主的裁判が望ましい様に思われます証人尋問の証拠力に釈然としない後味を残し易い危険を伴い勝であります。

第四、判決の理由証拠説明について。

第一事実、一、検察官作成にかかる被告人に対する第四回供述調書と有るも是れのみにては漸く四回目の自白であつて直に任意にされた自白と即断し難い点もあり二、司法警察員作成の加藤正義の供述調書も被告が証拠とする事に同意した場合始めて証拠となり得るものなる以上証拠説明としては判決自体に一応其の事を書いた方が判決自体に依り其の事が判然とするがさもないと判決理由や証拠説明自体のみでは其の事が判然しないから被告の同意があつたものか否か一応は為念記録とつき合わせねばならぬ事となり判決のみを見ても証拠としたのは当然だと判決自体でわかる様にして頂き度いと思う証拠説明理由不備の違法ありと信ず、検察官作成の被告人に対する第四回供述調書証拠力の説明も以上と同断判決自体に一応簡単に証拠力の説明をして頂き度い判決自体でははつきりしません。

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